大手衣料品メーカーのワコール(本社・京都市南区)は5月30日、京都市内で宿泊事業に参入すると発表した。京町家や古民家を借り上げ、簡易宿所に改装。2018年4月から2~3店舗をめどに運営を始め、2022年までに約50店舗を展開する計画だ。
今回の事業は、ワコールのグループ会社で東京・青山の複合文化施設スパイラル(SPIRAL)を運営するワコールアートセンター(本社・東京都港区)と連携して展開する。リノベーションやデザイン、各種サービスの各業務をワコールアートセンターが担当。ワコールは行政、不動産会社、施工業者、物件所有者らとの折衝や契約を行い、宿泊事業全般の運営を担当する。宿泊施設の運営にあたって、近隣住民や地域の良好や関係構築なども事業の柱にしていく。
ワコールが異業種への参入を決めた理由は、京都の慢性的な宿泊施設不足の解消が目的だ。京都は通年で観光客が訪れるが、それに見合う宿泊施設が極端に少ない。特に修学旅行シーズンになると、京都市内の宿泊施設がほぼ押さえられてしまう現状がある。国内外から関西地方を訪れる観光客が増加する中、日本の伝統文化が色濃く出ている京都のさらなる魅力をPRするためにも、宿泊施設の増加が必要になる。
京町家は職住一体の伝統のある空間で、京都の都市景観の象徴ともいうべき建築物。しかし近年は、所有者の高齢化などで空き家や老朽化が進んでいることが問題視されている。後継者がいないケースも多くある。このため、地域や行政にとって深刻な問題に直面しており、抜本的な改善策について協議を重ねてきた。
ワコールの宿泊施設への新規事業は、地域活性化に加え、「通過型」だった京都へ訪れる観光客を「滞在型」へ変更できる流れになる。京都への宿泊が増えることによって、地域での観光客の消費活動が積極的になる。
地域の飲食店や店舗などの売上増が予想され、地域経済が活性化する波及効果も期待できる。観光客が宿泊施設を通じて、身近に京都の文化や歴史を体験できるのもメリット。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じて、京都滞在の経験を世界へ発信してくれる可能性も広がる。
ワコールでは事業計画ついて、2018年4月に2~3店舗での開業を予定。この5年後には、京都市内で約50店舗の展開を目標に掲げている。さらに、事業の状況を見ながら、将来的には京都府下や他府県での店舗拡大も視野に入れていることも明らかにした。