【特集】Airbnbが日本で仕掛ける新戦略 ホテルや旅館がAirbnbを味方にし始めたワケとは

届出を行うことで民泊の営業を可能にする住宅宿泊事業法が2018年6月15日に施行され、これまで民泊を定義する法規制がなかった民泊市場にとっては大きな一歩となった。

8月17日時点での民泊届出物件数は7,500件を超えるなど好調に見えるが、届出件数の増加率は徐々に落ち着きつつあり2018年の年末時点での推計値は約1万2千件※となる。(Airstairが観光庁のデータを基に算出した予測値)

しかし、同法施行前の時点では約56,000の民泊物件※があったことを考えると、年末時点の推計値でも同法施行前に対して約2割にあたる施設でしか届出が進まないことになる。(※民泊市場のリサーチ・調査を手掛けるメトロエンジン株式会社が提供する民泊ダッシュボードのメトロデータによる)

民泊新法施行によって大きく変わった宿泊市場で、オーナーと旅行者とをマッチングする民泊仲介サイトとして名を馳せたAirbnb(エアービーアンドビー)が新たに仕掛け始めた新戦略とは。

 

ホテルの「敵」だったAirbnbは、ホテルの「味方」へ

これまでホテルや旅館などの既存の宿泊施設が、Airbnbに代表される民泊仲介サイトの急拡大に対して嫌悪感を示すことも少なくなかった。

ホテルや旅館などが旅館業法等で定めされた厳しい設備要件をクリアしているのに対して、これまでの民泊(民泊新法施行前)は何ら許可を取得せずに運営を行っていることによる不公平感等がその理由だ。

しかし住宅宿泊事業法の施行を前に、Airbnbは同法の届出が行われていない民泊物件を一斉に削除するとともに、これらの物件に入っていた宿泊予約も強制的にキャンセルを行うなど厳しい対応を行った。

このような厳しい対応が功を奏して、これまで民泊を厳しく批判することが多かった既存のホテルや旅館業界とAirbnb等の民泊仲介サイトとの関係性が大きく変わりつつある。

 

Airbnb、日本で初めてホテル旅館組合と提携

Airbnbは、ホテル系の組合団体である別府市旅館ホテル組合連合会と観光促進施策を推進することを目的とした覚書を締結。

別府市旅館ホテル組合連合会は、別府市内の旅館ホテル 111 軒が加盟する組合団体で、Airbnbが旅館ホテル系の組織と提携するのは国内で初めての事例だ。

本提携に伴い、Airbnbはプラットフォームサービスへの適応を促す基本的なトレーニングを提供し、ホテル旅館組合の宿泊施設を順次Airbnbのプラットフォーム上に掲載する。

《関連記事》Airbnb、国内で初めて旅館ホテル組合と提携 Airbnbとホテルが初めてダッグ組む

 

Airbnb、予約サイトやホテルシステムと連携強化

高級ホテル・旅館の宿泊予約サイト「Relux」(リラックス)を運営する株式会社Loco Partnersは8月31日に、Airbnbとのシステム連携の開発が完了しAirbnbへ宿泊施設の提供を開始したことを明らかにした。

ReluxとAirbnbは、2017年9月に宿泊予約における業務提携を締結していたが両社間のシステム連携が完了したことで、Reluxに掲載のある宿泊施設のうち掲載を希望する施設はAirbnbにも同時掲載できるようになった。

他にも民泊やホテルなど宿泊施設向けにサイトコントローラーを提供するメトロエンジンの「民泊ダッシュボード」は、Airbnb、Agoda、AsiaYo!、自在客、Expediaなどの宿泊予約サイト間での在庫連携をサポート。

ホテルや旅館などで多く導入されている宿泊施設向けの予約サイトコントローラー「TEMAIRAZUシリーズ」もAirbnbと連携を進めるなど、ホテルシステムとの連携も強化している。

 

Airbnbがホテルや旅館を味方につけるワケとは

住宅宿泊事業法の施行により届出を行うことで民泊の営業を行うことができるようになり民泊届出物件数は着実に増えてはいるが、年間の営業日数が最大180日であることや一部自治体では上乗せ条例によりさらに営業日数が短縮されるなどしており、同法は主にホスト居住型(ホームステイ型)のホストが対象だ。

一方で、Airstairが実施した「住宅宿泊事業法意識調査 2018」では、法施行前の民泊ホストの 23%が法人ホストで1法人あたり平均120客室を管理しているという調査も。

民泊仲介サイトに掲載するホストでありながらも、法人や年間売上1,000万円を超える個人(個人事業主)も少なくはなく、実態としては事業者または事業者に近い個人が貸し出す例が特に都市部においては多かった。

そのような理由からも住宅宿泊事業法上の届出物件の天井が見えてきている中で、年間365日の宿泊営業ができる旅館やホテルなどに力を入れていくのは必然であったといえよう。

 

「地方」×「ならではの強み」がキーワード

Airbnbではホテルの掲載基準として「ユニークなお部屋とパーソナルなおもてなし」を提供することを宿泊施設に求めている。そのような宿泊施設はビジネスホテルなども多い都心部よりは地方のほうが多い。

観光庁の宿泊旅行統計調査(2018年6月)によると、宿泊施設の稼働率は東京都が79.9%、大阪府が76.5%であるなど高い一方で、大分県は51.9%であるように地方エリアは40%~50%台が多く長野県はたったの33%であり特に地方部で集客に苦戦している。

Airbnbが別府温泉郷を有する大分のホテル組合と提携したことからも明らかにように、「地方」×「その土地ならではの強み」を持つエリアを中心に圧倒的な集客力を誇るAirbnbへの掲載が加速することになりそうだ。

 

ホテル、Airbnbの集客力と手数料を見逃せず

Airbnbは、2017年の1年間で日本国内のAirbnb掲載施設に世界各国から約600万人の宿泊客が利用していたことを発表。2016年は約370万人だった宿泊客は1年で約1.5倍増えたことになる。

未届けの民泊が一斉削除されたことで掲載施設は大幅に減少したことで、Airbnbで予約したくても宿泊施設が見つからないという需要過多の状態に陥っており、ホテルや旅館が掲載するメリットは大きい。

また、オンライン宿泊予約サイトの米エクスペディアやオランダのブッキング・ドットコムなどのOTAに宿泊施設を掲載する場合、予約ごとに12%~15%の手数料が発生するが、Airbnbの手数料は3%のみ。

手数料が高いOTAへの掲載であれば自社ホテルサイトを経由した直接予約を増やしたいと考える宿泊施設もあるが、手数料が3%であればAirbnbに掲載してみようと検討するホテルが増えてもおかしくない。

そのようなホテルや旅館の受け皿になるべくAirbnbがこれまで進めてきたのがホテルシステムとの連携で、Airbnbは地方中心にホテルや旅館の掲載を本格的に増やしていくことになりそうだ。



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