民泊の規制緩和と法律の最新動向まとめ

個人宅の空き部屋に旅行者を泊める民泊が日本全国で広がっている。民泊サイト最大手のAirbnbに掲載されている日本国内の物件数は3万件を突破しており、訪日外国人の増加とホテル不足の影響で今後も物件数が増えることは必至だ。

民泊市場のさらなる拡大のに向けて、国は国家戦略特区の設置や政令改正、さらには法改正で規制緩和を進めていこうとしている。そこで今回は、2016年までに実施された民泊分野における規制緩和をご紹介する。

 

民泊の規制緩和 最新動向まとめ

特区民泊
特区民泊とは、国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例制度を活用した民泊のこと。東京都大田区では、2016年1月29日より、大阪府では2016年4月にスタート。2016年秋には大阪市でスタートする。
旅館業法施行令の規制緩和
2016年4月、簡易宿所の許可取得を取得しやすいように旅館業法の運用緩和(旅館業法施行令の一部改正、簡易宿所営業における玄関帳場に関する通知の見直し)を実施。
民泊新法
民泊新法とは、民泊の普及に向け政府が検討する新法のこと。2017年の通常国会への提出が目指されている。

 

特区民泊による規制緩和

特区民泊とは、国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例制度を活用した民泊のこと。特区民泊を実施できるのは、「国家戦略特区」(国家戦略特別区域)のうち民泊条例を制定した自治体に限られる。

国家戦略特区とは

「国家戦略特区」は民間企業が新しいビジネス展開をしていく上で立ちはだかる規制を大きく改革してこうとするもの。特区民泊を活用した民泊運営のためには、国家戦略特区に指定されているエリアであること、民泊条例を制定していることが必須条件になる。

2016年現在は、東京都大田区、大阪府の一部、大阪市(※2016年秋から実施予定)に限られる。

《関連サイト》
国家戦略特区 | 首相官邸ホームページ
国家戦略特区|内閣府地方創生推進事務局

特区民泊の要件

特区民泊を実施するための要件は、国家戦略特別区域法施行令に規定されている。中でもおさえておきたいポイントとしては、「施設を使用させる期間が七日から十日までの範囲内」、「一居室の床面積は、二十五平方メートル以上であること」という要件だ。

国家戦略特区施行令は規制の大枠を定めるだけで、具体的なルールは各自治体で定める条例に委ねられる。特区民泊はすでに東京都台東区と大阪府でスタートしているが、ルールの中身はぞれぞれの自治体の考え方で異なる部分もあるため注意が必要だ。

特区民泊の要件として国家戦略特別区域法施行令では以下のことが規定されている。

要件のポイント
契約方法
・賃貸借契約及びこれに付随する契約に基づき使用させるもの。
施設使用期間
・7日から10日までの範囲内。
居室の要件
・一居室の床面積は、25平方メートル以上であること。
・出入口及び窓は、鍵をかけることができるものであること。
・出入口及び窓を除き、居室と他の居室、廊下等との境は、壁造りであること。
・適当な換気、採光、照明、防湿、排水、暖房及び冷房の設備を有すること。
・台所、浴室、便所及び洗面設備を有すること。
・寝具、テーブル、椅子、収納家具、調理のために必要な器具又は設備及び清掃のために必要な器具を有すること。

《関連サイト》
国家戦略特別区域法施行令

 

2016年秋から大阪市特区民泊がスタート

大阪市は2016年1月に民泊条例を可決。また条例可決にあわせて条例案に対する附帯決議も可決されており、条例の施行日は平成28年10月以降になる。なお市民の安全・安心が十分確保できないと認められる場合、条例の施行がさらに延期される可能性も残される。

要件のポイント
事業の用に供する施設を使用させる期間
・6泊7日以上
立入調査等
・市長は、職員に、認定事業者の事務所又は外国人滞在施設に立ち入り、又は関係者に質問させることができることとする。
認定申請者の責務
・事前に施設の近隣住民に対し、外国人滞在施設経営事業に使用されるものであることを適切に説明しなければならない。
・施設の滞在者に対し、施設設備の使用方法、廃棄物の処理方法、使用上のマナー、緊急時の連絡先等について説明しなければならない。
・苦情等の窓口を設置及び近隣住民に周知し、苦情が入った場合は適切に対応しなければならない。

大阪市国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(特区)

 

特区民泊2泊以上に規制緩和が決定

2016年9月に、特区民泊で求められる6泊7日以上の最低滞在日数を2泊3日以上にすることが正式決定となっった。

東京都大田区や大阪府で、特区民泊がスタートしているが、2016年8月現在の申請件数は、大田区で17件、大阪府に至っては3件にとどまっており、ほとんど活用されていない状況が続いていた。

今秋にも2泊3日以上に緩和されるとのことで、申請件数は一気に伸びる可能性もあり今後の動きから目を離せない。

《関連記事》
特区民泊、2泊3日から可能に!秋にもスタート

 

旅館業法の運用緩和

訪日外国人急増によるホテル不足と全国で増加する空き家の有効活用の観点から、国は、2016年4月に旅館業法の運用緩和(旅館業法施行令の一部改正、簡易宿所営業における玄関帳場に関する通知の見直し)を実施した。

今回の規制緩和では、従来、簡易宿所型民泊で必要であったフロントが不要になるとともに、面積要件も緩和。従来は一律で33平米以上の広さが必要であったが宿泊客が10人未満の場合に関しては、1人あたり3.3平米以上になった。

これにより、簡易宿所型民泊が全国解禁になったと報道したメディアも多い。しかしふたを開けてみるとあまり喜べない問題が浮かび上がってくる。

《関連記事》
2016年4月旅館業法の運用緩和まとめ(新旧対照表)

 

旅館業法と上乗せ条例

上乗せ条例とは、法律よりも厳しい規制を課す条例のこと。旅館業法の運用緩和により法律上はフロント不要で簡易宿所型民泊ができるようになった。しかし、いくつかの自治体ではフロント要件を課す自治体もある。

実際、台東区では3月30日に「営業時間内は従業員を常駐させる」、「玄関帳場その他これに類する設備を有する」ことなどの条件を追加で課す台東区の旅館業法施行条例改正案を議員提案し、全会一致で可決した。

このように法律よりも厳しい規制を課す「上乗せ条例」のため、自治体によっては事実上は民泊解禁にはなっていないという点に注意しなければならない。

《関連記事》
台東区が民泊を事実上不可能にする条例案を可決

 

条例改正で規制緩和する自治体も

台東区のように条例改正で規制強化へ動く自治体がある一方で、規制緩和を進める自治体もある。規制緩和を進める自治体としては、福岡市、徳島県が挙げられる。従来、設置が求められていたフロント設置が不要になる見込みだ。

《関連記事》
福岡市が民泊解禁へ 旅館業法施行条例改正で規制緩和

 

民泊新法による規制緩和

民泊新法とは、旅館業法でも特区民泊でもなく、シェアリングエコノミーの特性にあわせて「民泊営業」を規定する新しい法律を指す。

新法では、ホストがゲストと一緒に滞在しているかどうかで「家主居住型」と「家主不在型」に類型化し、住宅提供者、民泊施設管理者、仲介事業者に適切な規制体系の構築を目指す。

新法は当初2017年の通常国会への提出が目指されていたが、官邸側が関係省庁に今秋の臨時国会への前倒しを指示したとの報道もあり、前倒しの可能性も残る。

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民泊新法の提出前倒し検討 年内秋の臨時国会にも

住居専用地域でも民泊が可能に

民泊新法では、民泊ホストが提供する施設は、旅館やホテルといった宿泊施設ではなく、あくまでも「住宅」という位置づけになる。そのため、新法ではホテルや旅館ではない住居専用地域でも民泊の運営が合法的にできるようになる。

しかし、地域の実情に応じて条例等により実施できないこととすることも可能となるため、民泊新法を活用した民泊営業を行う場合、エリア選定に気をつける必要はある。



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