京都の民泊業界に異変 2年で3倍に簡易宿所型の一棟まるごと民泊が急増

無許可の民泊に対する取り締まりを強化する京都市の民泊業界に異変が生じている。独自調査で明らかになったのは簡易宿所型の一棟まるごと民泊が急増しているという事実だ。本稿では京都市の民泊業界で起きている「異変」に迫った。

京都市が公表した旅館業施設数の推移によると、ここ数年で簡易宿所が急増している。2015年度に696件だった簡易宿所は、2016年度に1,493件と1年間で約2倍に増加。

さらに京都市が2018年1月に公表した数値によると2017年度の簡易宿所の速報値(2017年12月末現在)は2,106件で、前年度に対して約1.4倍増加している。

ホテルの総施設数は163(2015年度)から182(2016年度)へ微増、旅館は369(2015年度)から368と微減にとどまることから、市内では簡易宿所だけが爆発的に急増している状況がうかがえる。

 出典:許可施設数の推移

 

京都市内で簡易宿所が増える理由とは?

民泊の市場調査ツールを手掛けるメトロエンジン株式会社の「メトロデータ」によると、京都府内の民泊物件数は5,000件近く(201年2月時点)で都道府県別の民泊物件数ランキングでは東京都、大阪府に次いで3番目に位置付ける。

京都市は、北米の旅行雑誌「トラベル・アンド・レジャー誌」の読者アンケートで5年連続人気観光地ランキングベスト10に選出されたほか、「コンデ・ナスト・トラベラー誌」の人気都市ランキングでも世界第2位にランクインするなど注目度が高い。

京都は海外から注目度の高い観光都市であるのに加えて、民泊をはじめとする宿泊ニーズの多様化により、京都を訪れる民泊利用者が増えている。

簡易宿所が増えている背景には民泊は1施設1室であるなど小規模で運営されることが多く他の営業形態に比べてもっとも取得しやすい許可であるという点が理由のようだ。

 

京都でも始まる民泊新法による影響とは

2018年6月に施行される住宅宿泊事業法(民泊新法)により、京都市内でも届出を行うことで民泊の営業が可能になる。

しかし、京都市の住宅宿泊事業条例は全国的にも非常に厳しく、住居専用地域では原則として1月15日正午から3月15日正午までしか民泊営業を行うことはできない。

特にこの時期は宿泊業界にとって閑散期となり、京都市の住居専用地域における民泊は宿泊需要がそこまで高くない時期でかつ、1年365日のうち約60日間しか運営できずビジネスとして採算をあわせるのは厳しい。

このような理由から、京都市での住宅宿泊事業の届出は伸び悩むとみられ、一方で、1年間365日民泊の営業ができる旅館業法の許可を取得した宿泊施設(簡易宿所)はさらに増えることが確実だ。

 

無届け民泊の摘発強化で合法民泊にさらなる脚光

京都民泊市場レポートによると、京都市内には5,000件近くの民泊物件が存在しており、これらの多くが無届けの民泊であると見られる。京都市は2016年から2017年12月までに428施設に対して民泊の営業中止を指導するなど対策を強化。

2018年には組織改編で民泊担当者を20名から26名に増員するとともに、旅館業法上の審査、住宅宿泊事業法上の審査、監査指導の3チームに再編することを発表。

京都市は必要な許認可や届出を行わない民泊に対する指導、強化する一方で、民泊に宿泊する利用者側は、世界的にも人気の京都観光を求めて急増している。今後は旅館業法で合法化を行った民泊が急増することは確実だ。

《関連記事》京都市、民泊担当を26人に増員 民泊の監督指導の専門チームを設置・強化へ

 

京都市内で急増するのは1棟貸切の簡易宿所型民泊

京都市が公表する旅館業施設一覧によると、昨今増える簡易宿所の施設を一つずつみていくと新しい事実が浮かび上がってくる。

簡易宿所というと、ゲストハウス、バックパッカーズ、民宿など様々な宿泊施設が該当することになるが、最近許可の取得をした簡易宿所に多くみられるのはゲストハウスなどではなく1棟貸し切りの民泊なのだ。

旅館業施設一覧で2017年7月に許可を取得した施設を民泊物件が特に集中している下京区で調査すると以下のようになっている。

<下京区>

施設名称許可日キッチンありタイプ
レジステイ麩屋町H29.7.4
つきひの家H29.7.5一棟貸切
紀秀 京都H29.7.5一棟貸切
庵町家ステイ筋屋町町家H29.7.11一棟貸切
京都 室町 宝珠庵H29.7.11一棟貸切
8INN 四条烏丸H29.7.18一棟貸切
古都音H29.7.21一棟貸切
平旅籠H29.7.31一棟貸切あり
京都ハウスH29.7.31一棟貸切

※京都市内で民泊物件が多い下京区で抽出。最近許可を取得した施設はまだ予約を受け付けていない場合もあるため2017年7月の情報を参考とした。

昨今、簡易宿所として登録が進む施設は1施設1室(収容人数5~10人)で1棟全体を貸し切りできるタイプ(京町家を含む)や、キッチンやリビングを備える住宅のような宿泊施設が増えている。

今後京都では、1棟貸し切りできるタイプや住むように泊まれる「簡易宿所型民泊」が増えていくことになりそうだ。



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