民泊ビジネス終了か?「民泊180日以下」で閣議決定

個人宅の空き部屋に旅行者を泊める「民泊」について、部屋を貸し出せる日数を年180日以下とすることを条件に解禁することを盛り込んだ規制改革実施計画を閣議決定した。

民泊新法により、「民泊」は全国解禁となるが、年180日以下とする厳しい条件が課されることになる。

5月19日安倍首相に提出された答申の中で、民泊を全面解禁する一方で「年180日以内」の営業日数上限を打ち出しており、民泊への参入を検討している事業者からは反対の声が上がっていた。

 

ホームステイ型と家主不在型

民泊新法では、民泊ホストが提供する施設は、旅館やホテルといった宿泊施設ではなく、あくまでも「住宅」という位置づけになる。その住宅に家主(ホスト)が住んでいるかどうかで、「家主居住型(ホームステイ型)」と「家主不在型」の2種類に分類される。

「家主居住型」とはホームステイ型とも呼ばれ、民泊ホスト自身が住宅内に居住しながら、住宅の一部の空き部屋や空きスペースを旅行者に貸し出すものを指す。一方で投資型民泊とは、民泊ホストが住んでいない住宅を旅行者に貸し出すものを指す。

ホームステイ型民泊民泊ホストが、住宅内に居住しながら、住宅の一部の空き部屋や空きスペースを旅行者に貸し出すもの
投資型民泊民泊ホストが生活の本拠としない住宅を貸し出すもの

《関連記事》
民泊新法の最新動向〜民泊新法のすべてを徹底解説〜

 

「投資型民泊」はほぼ不可能か

規制改革実施計画では2つの民泊すべてについて180日以下の年間営業日数上限を設けることになった。現状の無許可民泊の多くは、稼働率が80%を超えることが一般的であり、この稼働率が50%に抑えられてしまうことで、従来の旨味は大きく損なわれることになる。

また注意しておきたいのは営業日数上限は「180日」ではなく「180日以下」である。「民泊サービス」のあり方に関する検討会では過去には、「年間営業日数30日以内の制限を設けるべき」といった意見も出ている。

また海外の例としてイギリスでは年間90泊以内、オランダのアムステルダムでは年間60泊以内といった規制があることも記載されており、「180日以下」ではなく「30泊(60日)」といったさらに厳しい日数上限が設けられる恐れもある。

ホームステイ型として民泊を行うことを考えている人にとっては規制緩和であるが、投資型民泊としての参入を検討していた事業者にとっては厳しい条件で参入はほぼ不可能といえる。

一定の要件について

民泊サービスの制度設計について

 

特区民泊か簡易宿所で「民泊」は実施可能

多くの人が期待を寄せていた民泊新法は180日以下の年間営業日数上限により、ほぼ絶望的と言えるが民泊ビジネスが一切できなくなるのかというとそうではない。

合法的に民泊を運営する方法としては、簡易宿所型民泊と特区民泊の2種類がある。

簡易宿所型民泊とは、簡易宿所(旅館業)の営業許可を取得することでできるようになる民泊のこと。一方で、特区民泊とは、国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例制度を活用した民泊のことを言う。

簡易宿所型民泊であれば原則、全国どこでも営業許可を取得することはできる。特区民泊は、東京都大田区や大阪府の一部と大阪市とエリアは限定されるが民泊営業は可能だ。中でも注目が集まるのが特区民泊である。

《関連記事》
民泊の規制緩和と動向まとめ

 

特区民泊最大のネックが規制緩和へ

特区民泊は、2016年1月29日に東京都大田区で、2016年4月に大阪府でスタートした。しかし、東京都大田区の認定施設数は20件・50居室で、大阪府も同様に3件3室と認定が進んでおらず鳴り物入りでスタートした特区民泊があまり盛り上がっていない。

訪日外国人旅行者の増加とともに、深刻なホテル不足が進んでいるにもかかわらず特区民泊が盛り上がらない最大の理由が、「6泊7日以上」という宿泊日数・利用要件だ。

現行の特区民泊では特区民泊の認定施設となった場合、6泊7日以上宿泊するゲストだけに限定しなければならず、申請件数が増えない原因となっていた。

しかし政府は9月にこの宿泊日数・利用要件を「2泊3日以上」に緩和することを決定。これにより特区民泊最大のネックがなくなることになる。

《関連記事》
特区民泊、2泊3日から可能に!秋にもスタート

 

民泊サービスにおける規制改革

「規制改革実施計画」(平成28年6月2日 閣議決定)(PDF形式:651KB)より「民泊サービスにおける規制改革」を抜粋。

適切な規制の下でニーズに応えた民泊サービス(住宅(戸建住宅及び共同住宅)を活用した宿泊
サービスの提供。以下「民泊」という。)が推進できるよう、以下の1.~3.の枠組みにより、類型別に
規制体系を構築することとし、各種の「届出」及び「登録」の所管行政庁についての決定を含め、早急
に法整備に取り組む。

この新たな枠組みで提供されるものは住宅を活用した宿泊サービスであり、ホテル・旅館を対象とする既存の旅館業法(昭和23年法律第138号)とは別の法制度とする。

なお、
・法律の施行後、その状況に応じた見直しを必要に応じて行うこととする。
・「届出」及び「登録」の手続はインターネットの活用を基本とし、マイナンバーや法人番号を活用するこ
とにより住民票等の添付を不要とすることを検討するなど、関係者の利便性に十分配慮する。
・既存のホテル・旅館に対する規制の見直しについても、民泊に対する規制の内容・程度との均衡も踏まえ、早急に検討する。

1.民泊の類型
(1)家主居住型
<要件>
①個人の生活の本拠である(原則として住民票があ
る)住宅であること。
②提供日に住宅提供者も泊まっていること。
③年間提供日数などが「一定の要件」を満たすこと。

「一定の要件」としては、年間提供日数上限などが考えられるが、既存の「ホテル・旅館」とは異なる
「住宅」として扱い得るようなものとすべきであり、年間提供日数上限による制限を設けることを基本とし
て、半年未満(180日以下)の範囲内で適切な日数を設定する。なお、その際、諸外国の例も参考とし
つつ、既存のホテル・旅館との競争条件にも留意する。

<枠組み>
○届出制とし、以下の事項を義務化する。
・利用者名簿の作成・保存
・衛生管理措置(一般的な衛生水準の維持・確保)
・外部不経済への対応措置(利用者に対する注意事項(騒音、ゴミ処理等を含む)の説明、民泊を行っている旨の玄関への表示、苦情等への対応など)
・(集合住宅(区分所有建物)の場合)管理規約違反の不存在の確認
・(住宅提供者が所有者でなく賃借人の場合)賃貸借契約(又貸しを認めない旨の条項を含む)違反の不存在の確認
・行政当局(保健衛生、警察、税務)への情報提供
○住宅として、住居専用地域でも民泊実施可能とする。地域の実情に応じて条例等により実施できないこととすることも可能とする。
○宿泊拒否制限規定は設けない。

(2)家主不在型
<要件>
①個人の生活の本拠でない、又は個人の生活の本拠であっても提供日に住宅提供者が泊まっていない住宅であること。(法人所有のものも含む。)
②年間提供日数などが「一定の要件」を満たすこと。「一定の要件」としては、年間提供日数上限などが考えられるが、既存の「ホテル・旅館」とは異なる「住宅」として扱い得るようなものとすべきであり、年間提供日数上限による制限を設けることを基本として、半年未満(180日以下)の範囲内で適切な日数を設定する。なお、その際、諸外国の例も参考としつつ、既存のホテル・旅館との競争条件にも留意する。
③提供する住宅において「民泊施設管理者」が存在すること。(登録された管理者に管理委託、又は住宅提供者本人が管理者として登録。)

<枠組み>
○届出制とし、民泊を行っている旨及び「民泊施設管理者」の国内連絡先の玄関への表示を義務化する。
○住宅として、住居専用地域でも民泊実施可能とする。地域の実情に応じて条例等により実施できないこととすることも可能とする。
○宿泊拒否制限規定は設けない。

2.民泊施設管理者
<枠組み>
○登録制とし、以下の事項を義務化する。
・利用者名簿の作成・保存
・衛生管理措置(一般的な衛生水準の維持・確保)
・外部不経済への対応措置(利用者に対する注意事項(騒音、ゴミ処理等を含む)の説明、苦情等への対応など)
・(集合住宅(区分所有建物)の場合)管理規約違反の不存在の確認
・(住宅提供者が所有者でなく賃借人の場合)賃貸借契約(又貸しを認めない旨の条項を含む)違反の不存在の確認
・行政当局(保健衛生、警察、税務)への情報提供
○法令違反行為を行った場合の業務停止、登録取消を可能とするとともに、不正行為への罰則を設ける。

3.仲介事業者
<枠組み>
○登録制とし、以下の事項を義務化する。
・消費者の取引の安全を図る観点による取引条件の説明
・当該物件提供が民泊であることをホームページ上に表示
・行政当局(保健衛生、警察、税務)への情報提供
○届出がない民泊、年間提供日数上限など「一定の要件」を超えた民泊を取り扱うことは禁止。
○法令違反行為を行った場合の業務停止、登録取消を可能とするとともに、不正行為への罰則を設ける。



.