専門家に聞く グレーゾーン解消制度「フロント設置義務なし」本当の論点とは?

経済産業省は8月16日、グレーゾーン解消制度の活用により「民泊サービスの実施に係る旅館業法の取扱いが明確になりました」と公表されました。上記の発表だけを見ると「民泊ではフロント設置義務が無い」ということを「経済産業省」が明確にしたと読み取れます。

しかし、民泊許可.comを運営する特定行政書士の戸川 大冊氏によると、上述のような理解は「間違い」だと言います。そこで今回は、経済産業省が公表したグレーゾーン解消制度「フロント設置義務なし」の本当の論点に迫りました。

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本当の論点は「旅館業法施行令」ではない

経済産業省が公表したグレーゾーン解消制度の「回答結果」の論点は、「簡易宿所営業の許可を受けるに当たり、旅館業法施行令上、その宿泊施設に玄関帳場(フロント)の設置が義務づけられるか」です。

旅館業法施行令ではホテルや旅館営業の構造設備基準について「宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他これに類する設備を有すること」とフロントに関する規定がある一方で、簡易宿所の構造設備基準において「玄関帳場」は規定されていません。

以上のことから「簡易宿所営業の許可を受けるに当たり、旅館業法施行令上、その宿泊施設に玄関帳場(フロント)の設置は不要」であることは明白なのです。ではなぜ経済産業省は「グレーゾーン解消制度」の活用事例として今回のニュースリリースを出したのでしょうか?

本当の論点は「旅館業法施行令」ではなく「旅館業における衛生等管理要領」にあるのです。

 

「旅館業における衛生等管理要領」とは

旅館業における衛生等管理要領」とは、厚生労働省が旅館業法施行令の解釈指針として各都道府県知事や各政令市長などへ向けて出されたもの。各都道府県知事・各政令市市長・各特別区区長宛に出されていることからわかるように旅館業事業者宛に出されたものではなく、行政の内部連絡として出されたもの、いわゆる「通達」にあたります。

行政内部での連絡である「通達」は「法規命令」とは区別され、行政と私人との権利義務関係を規律することはできません。つまり、法規命令ではない「旅館業における衛生等管理要領」(行政規則)は一般私人である民泊事業者を拘束する効力は無いのです。

「グレーゾーン解消制度」の発表で「旅館業における衛生等管理要領」に一切触れていないのは、一般私人を拘束できない通達に触れた回答を掲載するのは適切ではないからなのです。

 

「旅館業における衛生等管理要領」がなぜ問題に?

前述の通り、行政規則である「旅館業における衛生等管理要領」は一般私人を拘束できないのになぜ問題になったのでしょうか?それは、行政規則が一般私人に対して間接的に不利益をもたらすことがあるからです。

実際、旅館業の許可申請者に対して簡易宿所に玄関帳場を設置するよう行政指導を行うことがあったようです。というのも、都道府県や政令市では旅館業法施行令の解釈基準として内部的に「旅館業における衛生等管理要領」を参照し、その解釈に基づいて旅館業許可申請者に対して行政指導を実施するためです。

しかしながら、前述の通り行政規則である「旅館業における衛生等管理要領」は一般私人を拘束できません。また、行政指導は「相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであ」り(行政手続法32条)、これに従う義務はないのです。

玄関帳場を設けるよう行政指導を受けたとしても、それを拒否すれば足りる問題で、経済産業省が発表した「グレーゾーン解消制度」による回答を援用しなくても、法律レベルでは簡易宿所には玄関帳場は不要です。

ただ実際は、簡易宿所営業の構造設備基準で「玄関帳場の設置」が要求されていなくても旅館業法施行令1条3項7号「その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること。」とあるように、条例で玄関帳場の設置が義務付けられていればそれに適合する必要があります。

 

経済産業省の「グレーゾーン解消制度」とは?

既存の法令が想定してないような新しいビジネスを事業者が始める場合、その事業が法令に基づく規制の適用の対象となるかどうか不明確な場合があります。

今回で言えば、「コンビニエンスストア等にチェックインポイントを設け、そこで入手した電子鍵により玄関の鍵の開閉を行うスマートロックを活用した民泊サービス」は旅館業法が想定していなかった新しい事業形態と言えます。

グレーゾーン解消制度はそのような場合に、事業所管大臣を経由して規制所管大臣に対し、個別の事業形態について事前に規制の適用の有無を照会することができる制度です。旅館業法を所管するのは厚生労働省なのに、経済産業省がでてきたは「コンビニエンスストア等にチェックインポイントを設け」て行う事業は経済産業省の所管だからなのです。

「グレーゾーン解消制度」は民泊などのように既存の法令が想定しないような新規事業を検討している場合に、法令に適合しているか否かを判定するのに非常に有益な手段です。適法性に疑義がある場合には、専門の行政書士に相談しながらグレーゾーン解消制度の利用を検討すると良いでしょう。



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ABOUTこの記事をかいた人

「民泊許可.com」を運営する、民泊許可業務の第一人者。累計1,000名以上動員する大人気セミナー「民泊許可セミナー」の講師を務める。 民泊を推進する日本全国の自治体政治家にネットワークを持つ、日本で唯一の行政書士。 NHK「おはよう日本」、テレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」、TBS「ニュース23」、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」など多数のテレビ番組に取り上げられている。朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞、週刊誌などでも掲載多数。