世界を巡る旅行者たちにとって、宿泊施設の1つとして定着し始めてきた民泊。その民泊の先駆者であるAirbnb(エアービーアンドビー)の誕生地サンフランシスコ市で新しいルールが施行され、約5千件の民泊物件が削除された。

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1月16日からサンフランシスコ市で施行された新ルールに伴いAirbnbを含む仲介プラットフォームの運営事業者に対し、未登録の民泊物件の非表示を義務付けられたためだ。

昨年8月時点でサンフランシスコ市内に11,000件の民泊物件がAirbnbに掲載されていたが、現在約5,500件のみとなっており、実際に未登録の物件が削除されたことで劇的に減少した状況がうかがえる。

本稿では、民泊仲介サイトからの訴訟と和解など、う余曲折を経て施行に至った新規制と登録要件として民泊ホストに求められていることなどを解説。

日本でも今年6月に一定のルールのもとに民泊を解禁する住宅宿泊事業法が施行されるが、サンフランシスコ市の先行事例をもとに、日本では届出を行わない物件が施行と同時に一斉削除されるのか日本の民泊の未来に迫る。

 

サンフランシスコ市で繰り広げられた民泊規制

サンフランシスコ市はAirbnbの誕生地ということもあり民泊物件は非常に多く、昨年8月時点でAirbnbのリスティング数は約1.1万件にのぼる。

民泊の増加は、旅行者に多様なニーズにあった宿泊体験を提供しただけではなく、ホストは自宅の1室などを旅行者に短期間貸し出すことで副収入を得ることができるようになった。その一方で、一般市民にとっては賃貸物件の不足やそれに伴う賃貸相場の高騰、宿泊者のマナー違反による近隣トラブルといった問題を浮上させた。

これを受け、市は民泊運営を健全化するため、民泊ホストに申請書の提出と申請費約5,500円(50ドル)の支払いを求める条例を2015年に施行。しかしながら、登録は思うように進まず未登録のまま運営が行われる状況が続いていた。

 

仲介サイトによる訴訟と和解で登録を円滑化

そこで、サンフランシスコ市は新たな手段に打って出た。2016年6月、民泊仲介サイト事業者に対し、未登録ホストの掲載1件につき1,000ドル(約11万円)を課す新規制を可決させたのだ。この新規制は通信品位法に違反するなどとして、AirbnbとHomeAwayは市を提訴するが、2017年春に和解に至る。

両社は市とオンラインの「パススルー」システムを設け、ホストは氏名や住所などの情報をプラットフォームに提出、リスティング掲載する場合はその登録情報を市に提供し、認可登録を委ねることに同意。また、掲載リスティング情報を市に月々提出することも義務付けた。

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サンフランシスコ市での実際の物件登録画面

 

サンフランシスコ市で民泊ホストになるには?

ここで、サンフランシスコ市で民泊ホストになるための必要事項を改めて確認しておこう。なお、Airbnbではサンフランシスコ市で民泊運営を行う場合の必要事項について、解説ページよくある質問を用意している。

また市は民泊スターターキットを用意し何をしなければならないのかをわかりやすく解説、民泊の登録を促す手厚いサポートを用意しており、市とAirbnbなどの民泊仲介サイトが一丸となって登録を推し進めている状況が伺える。

【行政手続き】
まず、ホストに求められる行政手続きとして、ビジネス登録証明書と短期物件貸与の認可証を取得する必要がある。この手続きは訴訟後の和解によって、民泊仲介プサイト上から申請が可能となっている。

また、ホストは30日以内の宿泊者から「TOT」と呼ばれる14%の一時滞在税を徴収しなければならない。ただし、Airbnbの場合、宿泊費にTOTは含まれている。

【ホストの必要条件】
必要書類をそろえたうえで、貸し出す物件にホスト自身が年間で最低275日間生活していることが民泊ホストになる条件となる。家主不在型として貸し出す場合は、年間90日までの短期賃貸が認められる。

さらに、最低50万ドル(約5,500万円)の損害賠償保険への加入、家賃統制(家主の家賃引き上げや住居明け渡し権利を規制する法)の理解、市が定める建築基準との合致などが求められる。

【ホストの義務】
加えて、四半期ごとに賃貸状況を市へ報告、ホストの居住、及び短期賃貸状況を示す記録等の保管、消火器やガスの元栓、非常出口の位置などの情報表示などが民泊運営の要件となる。

サンフランシスコ市が用意する民泊スターターキット

 

新規制で仲介サイトから未登録民泊が一掃

サンフランシスコ市が1月16日に施行した民泊に関する新たな規制では、AirbnbやHomeAwayなどの民泊仲介サイトに対して、市に未登録ホストの掲載削除を義務付けている。Airbnbはこれまでも「1ホスト1物件」※などのルールを破っている民泊物件を削除するなど対策をしてきたが大規模な削除には踏み切っていなかった。

未登録の民泊物件は民泊仲介サイトから大規模に削除された背景には、民泊仲介サイトに対する罰則が大きいといえるだろう。万が一、未登録物件が予約を受け付けた場合、1物件につき1,000ドル(約11万円)の罰金が、ホストではなく民泊仲介サイトの運営事業者に課される。未登録ホストは規制施行後も登録できるが、認可が下りる前に入っている予約はキャンセルしなければならない。

新規制施行を受け、民泊仲介プラットフォームが消去するべきサンフランシスコ市のリスティング数は膨大だ。例えば、トリップアドバイザーが運営するFlipKeyは498件を削除し、残ったのは57件だけ。Airbnbは昨年9月以降、ほぼ“開店休業”状態の2,600軒を削除している。

新規制が施行されたことで、登録時に不正な申請を理由に却下されるケースも増えているだけでなく、未登録ホストは民泊仲介サイトから削除されるため、民泊運営の質の向上に期待もかかる。

※「1ホスト1物件」とは、ホストが複数の異なる住所にある物件のシェアを制限するためのルールでサンフランシスコやニューヨーク等で採用されている。

 

民泊ホストたちの反応は?

新規制の施行に対する民泊ホストたちの反応は多種多様。「余裕をもって登録申請したのに返答がなかなか来ない」といった意見や、「施行直前の駆け込み登録した」といった投稿がAirbnbサイトのコミュニティでは飛び交っている。

ABC7newsによると、ノースビーチで自宅の1室を国内外からの旅行者に貸し出しているPeter Kwan氏は、市に登録をした最初の民泊運営者たちの1人。新規制が「ホストの評判や、仲介プラットフォームに対する市の懸念を大いに是正してくれるだろう」と期待する。

すでにサンフランシスコ市内のAirbnbでは、リスティングページに登録番号を入力するフィールドを用意しており、「STR-#######」という登録番号をAirbnbに登録するとリスティングページに「免許番号/登録番号」として表示されるようになっているほか、部屋の紹介ページ中で登録済みであることをアピールするホストも出てきている。

免許番号/登録番号が表示されたAirbnbのリスティングページ

 

市や仲介サイトは規制の成果に期待

サンフランシスコ・クロニクル紙によると新規制の作成に関わったAaron Peskin氏は「市は賃貸住宅の供給危機に陥っているが、規制が施行されることで数百件から多ければ1,000件が一般賃貸物件の市場に戻ると、短期賃貸物件の専門家は確信している」と話す。

一方の民泊仲介サイト事業者側も規制施行には前向きだ。HomeAway広報のPhilip Minardi氏は「法を順守し、市と引き続き連携していきたい」とコメント。Airbnb広報のMatt Middlebrook氏は、「新規制はサンフランシスコ市と正規の民泊運営者にとってはWin-Winになる」とみる。

「プラットフォームに残っていくホストはこれまでも積極的にコミットしている人たちで、サンフランシスコ市の今後のビジネス基盤に大いに寄与するだろう」と話した。

サンフランシスコ市が新たに施行した規制によって、民泊市場や一般住宅市場が健全な方向へと向かう期待は少なからずある。果たして、民泊最前線の地がどう様変わりしていくのか、あるいはしないのか、その行方が注視される。

 

日本でも住宅宿泊事業法で無届けの物件は一斉削除?

日本では、今年6月に一定のルールのもとに民泊を解禁する住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行を前に、現在民泊仲介サイトに掲載されている無許可物件や未届け物件が施行後削除されるのかが争点になっている。

民泊のデータ解析を手掛けるメトロエンジン株式会社のメトロデータによると、2017年12月現在で日本全国には5.6万件の民泊物件が実際に稼働しており、うち東京都には1.9万件、大阪府には1.4万件の民泊物件が存在している。

民泊専門メディア Airstairが行った民泊ホストへの意識調査では、「旅館業法の許可あるいは特区民泊の認定を受けているか」という問いに対して約8割が無許可であると回答。現状だと最大で4.4万件が削除の対象となりうる計算だ。

 

※出典:民泊専門メディア Airstair 「住宅宿泊事業法意識調査 2018」より

 

削除対象の約5千件の大多数は非アクティブ

上述した通り、最大で4.4万件が削除対象となる可能性がある一方で、Cnetによると今回削除の対象となった物件の大多数は非アクティブの物件であるとも伝えている。Airbnbに掲載されているサンフランシスコ市の物件の35%は6ヶ月間は稼働していないという。

日本国内の物件もサンフランシスコ市同様に掲載してはいるものの稼働していない物件は存在していると考えられ、サンフランシスコ市の事例をもとに考えると、このような非アクティブの物件を中心に削除が進むことになる可能性はある。

いずれにせよ、6月に施行される住宅宿泊事業法を前に、必要な届出や許可がない物件が一定数削除される可能性は高く、日本の民泊市場は大きな転換点を迎えることになりそうだ。